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2017年4月 1日 (土)

『深い穴に落ちてしまった』イバン・レピラ読了

スペインの作品。原題は「アッティラ大王の馬を盗んだ少年」

この小説は抵抗、反逆をうたっておりそのとおりだとは思うが、一方、物語の結末とは違い、敢えていえば少年の成長過程における「父親殺しの小説だと思う。単なる復讐譚ではない。アッティラはウィキの脚注によればゴート族の呼称で「父親Atta」の縮小詞とある。因みに同じウィキには巻頭にあるサッチャーの渾名もアッティラとあった。偶然ではないだろう。弟(英訳ではSmall)が兄(同じくBig)に話す幻覚(幻視)でアッティラ大王の馬を盗んでひづめで靴を作る話をする。そして世界中を踏みつぶす。王が死んだとき兵隊は自分の肉を抉り取ったし、Smallもそうしたという。そして現実にBigと離れた時も胴体がサメに食いちぎられたような思いになったとある。(もしかしたらBigの方は現実に父を殺したのかも知れない。彼のサヴァイヴァル術は鳥の処理や殺人の心構えを含め実際に体験したものではないかと思える記述が多い。Big自身が過去にそういう目にあわされて切り抜けてきたのではないか。)

アッティラ大王=父=Bigから大事なものを盗む。それはBig望むSmallの成長と使命を促す。Smallは芸術家だ。だがそれに浸っている時間は余りにも短い。

穴にいる間にSmall謎かけの会話におけるようにBigを乗り越えているし、Bigの死を幻視するようになる。Bigも穴に捕らわれたあと早期の脱出に失敗した時点でもう自分の死を覚悟している。また自分を超える存在としてSmall評価するようになる。Smallもそれを自覚する。必然的にBigの死を乗り越え彼は世の中を変える強い人間にならなければならない。

しかしBigの深い愛情はSmallをただ強いだけでなく、もっと才能を開花させ豊かにするような気がしてならない。これがSmallが望む世代を越えて残ることに必要なことだと思う。先日読んだ「方法異説」の中に主人公の独裁者が最後にミニラルース(百科事典)にも載らなかったと嘆く場面がある。

それにしても穴の中の二人の苦境や肉親愛、弟の幻視の描写は見事だ。あっという間に読み終えたが暗号の解読もありまた読み返した。素晴らしい小説だと思う。しかし判らない。編集からヒントをもらって正解した人も少し難があるとネットにあった。英語版だと、数字は素数のみだし、文章は短い単語で区切りがあるからまだ判りやすい。あと翻訳者が訳注で妄想と書いていたがどうみても真実だろう。(それでこのブログではBigSmallにした。)政治的メッセージ強い寓話や不条理に見えるが、結局は暗号と同じく解読されるものだし、極めて正統的でリアルな小説だと思う。私は題名は原題の方が好きだ。夢がありそして残酷だ。また穴には落ちたのではなく捕らわれたのだと思う。

オーウェルのスペイン内乱のルポ「カタロニア賛歌」からなんら進歩なく逆行しているのだろう。スペイン世界

素数prime number英語に示されるように特別の数字だ。そしていまだ数学の未知の分野だ。素数の出現の法則性も解明されていない。また暗号の基にも使われる。著者のそういう遊び心がなぜかほっとさせる。そういう意味では邦訳の暗号はまだ改良の余地があると思う。

※この小説の暗号解読に興味のある方は、下記まで(閲覧注意!)

http://ngbligton.cocolog-nifty.com/blog/2017/05/post-26aa.html

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