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2013年7月

2013年7月30日 (火)

エッセイ集『時間の香り』を読む

「ときのかおり」と読む。高砂香料工業の時報に掲載された香り、匂い、臭いに関する50人のエッセー。ジェームズ・三木はやはり下品な臭い。永六輔は説教臭い。やはり杉浦日向子のように江戸のけはいを漂わせるのが良い。気配と書くと気配りを思わせいやみたいだ。多くの人がにおいと記憶を結びつけている。自分はあまりにおいに敏感な方ではない臭気感知テストでも5品目のうち一品目はいつも外す。臭覚の受容体が具合が悪いのかも知れない。そういえば、視覚や聴覚の障害(障碍か)者に対する差別用語はあるのに臭覚や味覚障碍者は差別されない。

せいぜい鼻が低いとか味が分からないと馬鹿にされるぐらいだろう。早坂暁の臭覚異常の世界や今井通子の高所登山での臭いのない世界はなるほどと思った。早坂暁と臭覚と性欲の関連、今井通子の高所での自分のにおいに対する愛情は面白い。においは揮発性物質だから高所や冷所では当然揮発しづらいだろうし、またあるものはフェロモンでもあるだろう。またカビ臭の原因でもあるテトラアニソールはpptのオーダーの閾値を持ち水道水をまずくさせる。それでも人間は馴れる。閾値は時間とともに段々高くなり感じなくなる。そして時間と共に香りの記憶もおぼろげとなっていく。

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2013年7月29日 (月)

エイモス・チュツオーラ『やし酒飲み』を読む

ナイジェリアの小説。1952年。原題「The Palm-Wine Drinkard and His Dead Palm-Wine Tapster in the Deads' Town」Tapsterはバーテンダーとか給仕人とあるが本書ではやし酒つくりの名人と訳されている。まず気になるのは主人公飲む大量のやし酒とそれを供給する名人の技である。多分、発酵の進んでない(アルコール度数の少ない)酒ではないか。また作られる量に関しては名人は酵母をふんだんに使用したか何らかの魔術を使って発酵を早めていたのではないかと野暮なことを先に考える。森とか精霊とか死神とか水木しげるのようだ。より始原的な部分では諸星大二郎の「マッドメン」を思わせる。「不帰の天の町」では傾斜の急な丘陵の中腹に家を建てる生物が出てくる。これも「遠い国から」を思い出させる。また「混血の町」の裁判では宮澤賢治の「どんぐりと山猫」の一郎少年の困惑を。いろんな神話や童話やマンガの混淆のような話だ。あとがきによるとこの小説は「恐怖」対「モラル」の話でもあるという。確かに主人公夫妻は「死」は売ってしまって死ぬことはないが「恐怖」は買い戻してしまった。また主人公は人間であり神であり善である。小説は短いが能書きは長くなってしまった。このナイジェリアのヨルバ王国の人民はキューバまで奴隷として送られカルペンティエ-ルの「エクエ・ヤンバ・オー」の元となった。

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2013年7月22日 (月)

ブッツァーティ『七人の使者・神を見た犬 他十三篇』(岩波文庫)を読む

イタリアのブッツァーティの「六十物語」1958年から訳者が15篇選んでいる。一言で言えば幻想小説なんだろうけど、どの作品も余韻が残る。情感がこもっていて胸に沁みる。表題2作は当然良いし、「竜退治」のリアリティと悲しさ。「大護送隊襲撃」の清清しい読後感。「円盤が舞い下りた」の善悪の実を食べなかった宇宙人と神父の話はSFとしても面白い。「七人の使者」「道路開通式」の主人公の頑固さとやるせなさ。「神を見た犬」の皮肉ぽさ。訳者はこの犬を別の野良犬としているが、わたしは最後まで町の俗物と一緒で同一の犬と思っていたし、骨になった犬の復讐の話ともとれる。それは「竜退治」と似ている。「マント」の死神はあくまでやさしく忍耐強く、「それでも戸を叩く」魔物は礼節正しい。「聖者たち」は先日読んだ「神童のための童話集」の中の「ジャン=マリー=フィリベール=ブレーズ=ルイ・ド・クゥ」を思わせ、可笑しい。他の作品も面白い。ブッツァーティは優れた作家だ。

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2013年7月11日 (木)

『神童のための童話集』クルジジャノフスキィを読む

恰も神童らしく振舞おうとしてもその才が微塵もない「わたし」にとっては難解な本。炎上父さん推薦の本はなかなか手ごわい。こういうときは哲学的な素養が欲しいと思う。訳者解説によればクルジジャノフスキィ自身が「無名なことで有名」と自嘲していたという。それはともかく「神は死んだ」は小松左京の「夜が明けたら」を思いださせる。もっと説明的でほんとに死んだという臨場感はある。だけど滑稽さも感じる。「プロメテウスに縛られて」で火が流す涙は切ない。「売られた涙」は教訓めいているが水であろうとダイヤモンドであろうと名前、文字が違うだけ。これも橋幸夫の「雨が小粒の真珠なら(儲けもの)♪」という替え歌を不謹慎ながら思い出す。「老人と海」の心虫との奇妙な同棲。これら29の短編からなる童話集は不思議な感触で、浅学非才のわが身にとっては、ですから結論を言うとこの本は感想を本当に述べづらい。

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