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2011年11月23日 (水)

イエールジ・コジンスキー『異境』

コジンスキーの本を読む前、胸がどきどきする。凄い不安感、やはり「異端の鳥」のトラウマだろう。この本は何か人間を辞めたようなそんな感情のない世界のような気がする。20篇ほどの題名のない物語というか寓話のような小説。カフカとセリーヌを彷彿させると本の袖には書いてある。セリーヌは読んだことがないので、なんとも言えないが、カフカはないだろう。今まで自分が読んだ中ではフリオ・コルタサルに近いような気がした。ただコジンスキーは更に醒めている。共同経営者の話も面白いが何か死を恐れない投げやりな感じがする。セックスも激しいが冷静だ。初めの田舎娘の話も、納屋の檻の女も場所を移動させただけの話で解決にはなっていない。どこに幸せがあるのだろう。みなあの神父と同罪だ。原題は『STEPS』ということだ。「異端の鳥」の少年から次のいろいろなステップに移っても救いがないということか。冒頭の謝辞に「温厚な男、わが父に捧ぐ」とある、また聖婆伽梵歌「マハバーラタ」から「抑制のきかないものに、知恵はないし、集中力もない。そして集中力のないものには平和はない。そして、平和のないものに、どうして幸福があり得よう。」と引用している。気になっていたらあとがきにもこの二つがこの小説に大きな比重を占めていると書いてあった。コジンスキーの世界には彼の父とは異なり平和もないし幸せもなかったかと思うと凄く哀しい。多分それはコジンスキーほどではないが自分にも共通する部分があるからだろう。

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